ただそこは空虚だった(2)

 シャドウのまわりに漂う雰囲気が、俺を飲み込まんとするばかりに膨れ上がった。
『お前は何がしたいんだよ! ……俺、判らないんだ。お前のことは全部知ってるはずなのに』
「……そんなの、決まって、……」
 言葉を飲み込み、よく考えてみれば犯人が捕まった今俺は何をすればいいのか。判らなかった。
『俺はどうすればいいんだよ……!』
 苦痛による叫びだった。拳をにぎりしめ、俯き肩を強張らせてまでの叫び。影は俺なのだから、俺の判らないことなど判るはずもない。
「……ごめん」
 その一言に、影は顔を上げた。
「辛い、よな。からっぽで、独りで、すべき事さえなにもなくてさ。みんなもいずれ離れていくんだって考えたら、怖い、よな」
 影を抱きしめてあげれば、安心した様子であちらも手をまわしてきた。そしてその途端、鳴咽と涙を零し泣き出した。
「もう大丈夫だから。ありがとう」
 頭をふわりと撫でれば、影は頷き俺から離れた。
『もう……この場所だって、受け入れられるよな』
 辺りを見渡すと、さっきまでの霧がなかったもののように綺麗に晴れていた。そして、そこはかつて両親と共に暮らしていたマンションの俺の部屋だった。
「当たり前だろ。もう、吐き出したかった事全部お前が言っちゃったんだし」
『そっか。よかった』
 儚げに笑う彼の目はきれいに細められていた。

 壁一枚隔てたあたりから、物音がした。きっと花村たちだろう。玄関のドアが開けられ、捜査隊の面々が入って来る。
「先輩! あ、影の反応もやっぱりここ!」
「大丈夫か!?」
 影と対峙する俺を見るなり、皆戦闘態勢に入った。
「大丈夫。な?」
 影に笑いかければ、彼も頷き青く輝く光となって消えていく。その光景に花村をはじめとした自称特別捜査隊が目を丸くしていたが、自分達が一度体験したことである。どうやらすぐに納得されたようで、それどころか彼らは俺に駆け寄ってきた。
「すげぇ……やっぱお前、すげぇよ! さっすが俺の相棒だな!」
「先輩、マジスゲーっス……一人で鎮めるたぁ、そうそうできることじゃねえ」
「君が無事でよかったぁ……」
 皆に安堵の声を掛けられる中、直斗だけが複雑な顔をして考え込んでいた。
「ちょっと待ってください! 生田目はすでに捕まっているはず……一体誰が先輩を入れたんですか?」
 記憶を探るも、入れられたときの記憶はなぜか抜け落ちてしまっていた。むしろ、最後に会った人さえ思い出せない始末。
「もし他に真犯人が居るとしたら……」
「で、でも……居るとしたら、どうして先輩なの? わざわざリーダーなんて狙うかな……」
 直斗は頭を抱え込み、嘆く。
「くそっ! なんで解けないんだっ! ……とにかく、明日また特捜本部に集合しましょう。何か判るかもしれません」
 皆同意し、明日に備え帰ることにした。が、思いの外身体が重く、うまく歩けない。ぐら、と揺れた身体を花村が支えた。
「あ、りがとう」
「いいっつの。今日はしっかり身体休めろよ」
 もう返事を返す気力もなく、花村に体重を預けゆっくりと歩いて行く。



 真犯人を見つけだしたのは、それから僅か三日後の事であった。
 やることなんて、こんな身近にある。なら、それを貫き通すまでだ。
「これからもよろしく、もう一人の俺」
召喚中に呟いた言葉に対して、『任せろ』と囁かれた。そんな気がした。





――――
お付き合いありがとうございました。
小説を綺麗に終わらせるのすごく苦手です。
どうやったらあんなまとまった終わりがかけるのか……謎。

name
email
url
comment